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総合プロブレム方式 Q & A


非常によくある質問をQとAとしてまとめました
(内科学研鑽会)

Q1:プロブレムリストで「重要性の順にあげる」と教えられているが、総合プロブレム方式では時系列であげる。その利点は何か?

(以下は巷で良く見られる例)
#1 筋萎縮性側索硬化症
#2 歩行障害
#3 高血圧症
#4 糖尿病
#5 投薬 (アダラート・ダオニール)
#6 喫煙なし 飲酒なし

A:
1:プロブレムの発生順
 疾病はその存在を認知されてはじめてプロブレムとなる。プロブレムとは認知されてアクションの対象となった疾病のこと。「認知する」の主語は“医師”。疾病は医師に認知されて医学的対応の対象となる。行動対象となった疾病(プロブレム)から順に、その日の日付を記して登録する。これは医師の覚悟を表しており、まさに「宣言」。
2.疾病の発生順
 患者が今日はじめて医師の目の前に現れたのであれば、すべてのプロブレムは今日、同時に認知したことになる。このような場合、プロブレムの登録順は医師が推測する「疾病の発生順」となる。医師の想定する「病態の構造化」が反映されることになり、ここでも医師の覚悟を表している。
 発生順で登録することにより、その時点での患者の病態構造を知ることができるばかりか、これまで患者の中に繰り広げられた歴史をも知ることができる。それと同時に医師がそれまでに辿ってきた道程も示される。
 発生で登録することにより、リストは普遍的に用いられ、継続性を獲得する。リストが使い捨てされることはなく、展開をすることによってプロブレムリストは「死」まで患者とともに活き続ける。

Q2:発生順ではプロブレムが多いとき何がこの患者の本質的な(今日的な)問題なのか、わかりにくくはないか?
A:一人の患者の中に起こっている事態だから、歴史を辿ってそれらの相互関係を知らずして、現在の的確な把握はできない。プロブレムの数が多い時こそ、複雑な病態構造を正しく知り、迅速かつ的確な判断をするため、発生順が威力を発揮する。

Q3: 発生順で書いたプロブレムリストで、その時の重症度と緊急度がわかって迅速に対応できるようなリストになるだろうか?
A:発生順で登録されていても、ほとんどの場合、プロブレム名が自ずと重症度を示している。一般に急性期では、新たに登録されたプロブレムが最も高い緊急度を有する。
 重要順のプロブレムリストもプロブレム間の相対的な重要度は示せるかもしれないが、絶対的な重要度は結局そのプロブレムのSOAPを読まなければ分からない。
 ただし、発生順でプロブレムリストを登録するにあたり、「一過性小プロブレム」と「初動暫定プロブレム」の概念を導入する必要が出てくる。さもなければ、「92歳女性、・・・#100脳梗塞、#101感冒<>、#102「感冒」といったことになりかねない。「一過性小プロブレム」は「ウイルス性胃腸炎」「急性咽頭炎」などの記録として残しておく必要に乏しいプロブレム、「初動暫定プロブレム」は本当にプロブレムとして存在しているか分からない初期の段階で暫定的にその存在を認めるプロブレム。両者とも#a#b#c・・・として掲げ、#1#2#3・・・と正式登録はしない。これによりプロブレムリストには、たとえ<>になったとしても存在していたことを記録に残しておくに相応しいプロブレムだけになる。

Q4:プロブレムは疾患か? 患者の抱える問題すべてではないか?
A:巷で広く用いられている「プロブレムリスト」は、「プロブレム」の扱い自体に統一がなされていないように思われる。「プロブレム」は「≒病気・疾患」。
#5 投薬 (アダラート・ダオニール) や #6喫煙なし 飲酒なし はプロブレムではない。プロブレムの治療内容、プロブレム(病気)を惹起させうる危険因子にすぎない。カテゴリーの異なる項目をリストに乱列させると混乱を招く。

Q5:「プロブレム」は「問題」で、病気も含む解決することを目標とする患者が抱える「困った事柄」としてはどうか? 疾患に限らないほうがよいのでは?
A:プロブレムを単に患者の抱える「困ったこと」とすると、
例)
#1糖尿病
#2勤務先の会社の倒産
#3貧困(#2)
#4急性腎盂腎炎
#5遠方に在住中
といったプロブレムリストにもなる。“医師”として、対応の責務にあるのは#1と#4。#2、#3、#5は、患者の社会生活背景として医師の対応に影響を与えうる因子であるが、医師が業務として対応すべきことではない。並列させずに別に記載することが望まれる。

Q6: 疾患(病気)は、あくまでも困った状態を起こしているものごとの一つではないか?社会的問題を軽視していないか?
A:われわれが患者に接して、さまざまなことを問題と感じる。“血糖350”、“会社の倒産”、“遠方に在住中”などなど。なぜそれらが診療上に問題となるか?疾患の治療に支障をきたすという意味で問題になる。すなわち、何らかの疾患の想定の下ではじめてこれらが問題になる。疾患がなければ病院より“遠方に在住中も問題にならない。
 このようにわれわれが問題と感じる事実には疾患自体と疾患の想定の下で初めて問題になるものとに区別できる。同列に扱えない。疾患の想定の下で初めて問題となる事実は疾患に応じて変動する。

Q7:社会的諸問題は無視できない重要な問題だがプロブレムとしないとすると、それらの情報はどのように取り扱うか?
A:心理社会的背景などは患者の診療に当たる上で情報収集されカルテに記載され、投薬通院その他において当然考慮されるべき。
例)#3急性肺炎
S) 咳は少しおさまってきた。いま妻と別居中だし失業中で保険もない、
     入院費が払えない、できれば早く退院したい。
O) 略。
A) 金銭面も考慮し採血検査は最小限にしよう。入院管理が安全と思われるが外来通院できるから通院で抗生剤点滴加療。
P) Tx*** *g 11回点滴静注(外来にて)
といったように、現時点での最重要プロブレムの中で検討されて述べられ記載される。病棟のカンファレンスでも医療者が承知すれば充分である。

Q8:プロブレムに「疑い」をつけては何故いけないか?それも患者の病気ではないか?
A:体温39.0度の患者がいる。「病気」がある。結核かも白血病かも感冒かもしれないその「病気」を「発熱」と名づけリストに登録する。現時点におけるその「病気」は、熱中症などの「高体温症」ではなく、まさに「発熱」であると確信したから。このときは、結核かもしれない、白血病かもしれない、感冒かもしれない、と考えを廻らせるが、この時点で「#1結核」あるいは「#1結核疑い」と登録はできない。確定診断名は「発熱」であり、その鑑別診断のひとつにすぎない「結核」「白血病」「感冒」の名をつけることはない。
 登録されるプロブレム名が必ずしも「疾患名」であるとは限らない。最初はむしろ、「症状」、「所見」、「病態」の名がつけられることが圧倒的に多い。医師のプロブレムに対する認知が深化するに伴い、より特異的な名へと展開される。具体的には「発熱→急性白血病→急性骨髄単球性白血病」など。病気自体が変貌していったのではなく、医師のプロブレムに対する認知が深まった。プロブレムリストは、それを見る者に医師の辿った道程をも知らしめる。

Q9:患者に症状があれば全部プロブレムに挙げよ、と教えられているが。
A:プロブレムリストは「疾患のリスト」。症状や所見の羅列ではない。総合プロブレム方式の説明を読むだけだと煩雑なものに思えるが、いったん仕組みを理解して日常業務に取り入れると自分の思考回路のあいまいさとこのシステムの有効性を実感できる。この形式にのっとって情報収集と思考を行なうことで自らの(他医師のも)思考回路を確認できる。いわゆるPOSのリスト、キーワードリスト・thinking list・勉強事項リストといったものと「プロブレムリスト」は本質的に違う。総合プロブレム方式において、「プロブレム」と呼んでいるものは、既成の「Problem」の意味とも「疾患」の意味とも少し異なる。「患者の内に医師が認知した病気」が「プロブレム」(認知しないうちは「プロブレム」ではない)。「プロブレム」という用語は新しい概念を表しており、あえて「Problem」と記していない。誤解を恐れながらも理解を優先させるため、「プロブレム疾患」、「プロブレム病気」と表現した。

Q10:プロブレムの命名について、同じ事とわかるなら命名に神経質にならなくてよいのでは?
A:「不整脈発作」はただいまの発作が治まれば治癒。しかし患者の疾患は、先月も先日も発作となって表れた「発作性不整脈」。この患者のプロブレムは発作性不整脈であって治癒してはいない。同じように見える命名にも認識の違いが表れている。コトバが違えば認識は違う。

Q11:疾患が治癒すれば、その番号はなくなるか?既往症については?
A:いったん正式にプロブレムとして登録されたものは治癒してもなくならない。その患者のプロブレムリストに存在し続ける。
例)
#1 糖尿病[登録日付]
#2 高血圧症[登録日付]
#3 発熱[登録日付] →急性肺炎球菌性肺炎[登録日付]→治癒[治癒日付]<>
と明確に記載される。これ以後この患者に関わる医師にとってはこの#3は既往症ということになる。今後いかなる疾患に罹患しても#3はこのまま。次に何か疾患を起こしてしまえば、例えば、#4 急性心筋梗塞[登録日付]と追加される。#4が重症であるからという理由で#1 急性心筋梗塞 と書き換えられることはない。#1は永遠に糖尿病。
 継続してプロブレムリストを作成し扱うことで患者の医学的歴史が一目瞭然となる。

Q12:いわゆるPOSではnon-acitive problemというものをactive problemと別に書くようになっているが?
A:以前より内服治療を受けているコントロール良好の高血圧症や糖尿病は、明確な疾患であるのでリストに登録される。厳密な意味で治癒しないものは既往症にはなりえない。こういったプロブレムを「既存症」として「既往症」と区別する。既存症は必ずプロブレムリストに挙げられる。完全に治癒したものが「既往症」。したがって自分が担当してリストをつくる時点においてすでに治癒していたものは「既往歴」として記載されるに過ぎずリストにはあがらない。
 リストが作成され始めてから、登録されて治癒したものはその時点で既往歴となるがそのプロブレムは消え去らない。その患者の歴史に有り続ける。