文字の大きさ:AAA 

総合プロブレム方式 ー 用語集


総合プロブレム方式

総合プロブレム方式 L.L.Weedによって1968年発表されたProblem Oriented System(POS)(1)に触発されて開発された新しい思考記述様式(2)。POSと同じ記号を使用するが、定義・内実は異なる。総合プロブレム方式は現実の患者の錯綜する事態を整理し秩序立てる上に有効な方法。この様式を満たすためには、知識の秩序化、観察所見の正確さ、判断の明晰性、行動の合理性が求められる。本来臨床実践医学に要求される合理性を具体的実戦的に表した方式。  

詳述は、正しい診療への合理的アプローチ(総合プロブレム方式のすすめ):栗本秀彦著;文光堂・B5版・4,635円、にある。

プロブレム

総合プロブレム方式の基本概念のひとつ。患者の疾病はプロブレムという概念で表現される。疾病の診断は常にentityとしての疾患名を求めるが、診断作業が疾患名に到達するまでには長い道中がある。その道中も疾病はありつづけている。だからそのときどきに、entityとしての疾患名ではなくても疾病に名をつけて呼ぶ。このように考えたとき、患者の疾病とその呼び名をプロブレムという。entityとしての疾患名を求める道中、呼び名は次々変わり得る。プロブレムは最初、症状や所見の名で呼ばれることも多いが、それは疾病のそのときの名であって、そのときにある症状や所見のことではないことに注意する。プロブレムという基本概念を身につける上に、この注意は重要である。

プロブレムリスト

患者のプロブレムの一覧表。患者の疾病は一つとはかぎらない。複数の疾病(プロブレム)それぞれに呼び名があり、ある時点では一は症状名、一は疾患名ということも多い。診断作業の道中、プロブレムは名をあらためてゆく。疾病は、それぞれに過去・現在・未来を持っている。したがって、プロブレムごとに症状・所見・原因・予後などを記述できる。

基礎資料・データベース

総合プロブレム方式の基本概念のひとつ。プロブレムを認知命名するために収集した患者にかんする医学上の資料。病歴・身体所見・過去の資料・スクリーニング検査所見の四大事項からなる。

病歴

問診によって得られた、医師の代筆による、患者が描写した患者の病状の歴史的記述。病歴は患者を主語としてなされることに注意する。

身体所見

医師が視診・聴診・打診・触診技術を駆使して観察記述した事項。医師の綿密・明晰・知力・品格は診察(問診・身体所見)に最もよく現れる。

過去の資料

患者について医療機関が残した過去の資料。

スクリーニング検査所見

疾病を有すると予想された患者にルーチンとして行う検査のパッケージ。簡便・迅速・安価であり、異常事態に感受性が高いことが要請される。

症状

自身で経験する身心に関する通常でない感覚。観察者は患者自身でしかあり得ない。

所見

身心に関して客観的に観察記述された事項。観察者は患者でもあり得る。

計画

人・場所・時間・もの・方法などを特定して記述した未来行為。動機・目標・方針とは異なることに注意する。この混同が曖昧と杜撰を生む。

主治医

医師の専門とは範疇を違える。患者に対する医師のはたらきで、つぎの機能を執り行うもの。

1 プロブレムリストを作成する

2 プロブレムリストを管理する(患者の医療担当責任者)

3 現時点の最大プロブレムを担当すると同時に、一過性の小プロブレムも引き受ける

4 一般的基本健康事態を管理する

5 一般的基本社会事態を掌握する

代行医

主治医の機能の部分を代行する。大別して三種ある。

1 主治医にかわって、あるプロブレムを担当する

2 主治医にかわって小規模技術を担当する

3 主治医にかわって技能手技を担当する

(1)L.L.Weed ; Medical Records That Guide and Teach , New England J. Medicine 278 : 593-600, 652-657,1965

(2)正しい診療への合理的アプローチ(総合プロブレム方式のすすめ);栗本秀彦著・文光堂1995・B5版・4,635円