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研修医の勉強 - 独学勉強


E:知識が使えないのは、有機的にまとまった知識として蓄えられていないからです。学生時代の知識を使える知識に組み替えます。ブロプレムに組み立て直すのです。

A:どういうことでしょうか?

E:有機的に知識をまとめるといっても、とっかかりがないと途方に暮れます。現実にあるのは疾患ではありません。プロブレムです。プロブレムごとに考え直すのです。一般にテキストは疾患の説明をしています。たとえば、肺炎、脳梗塞、白血病などと。だが、現実の患者は脳梗塞などと名札をさげてはいません。だから疾患の知識だけでは役に立ちません。現実の出来事はたとえて言えば昏睡です。昏睡を徹底的に勉強するのです。そうすると、脳の解剖から始まって、脳の生理学、代謝、はては細菌学、病理学まで勉強しないと、たった一つの出来事、昏睡さえ理解できません。あちこち書物をひっくり返しながら勉強します。病理が肉芽腫といっているとき、肉芽腫を分からないといけません。分かるためには炎症を理解し、対比して膿瘍も分かる必要があります。クリプトコッカスと細菌学が言えば、細菌・真菌・ウイルスを知ることになります。対比的にカンジダやアスペルギルスも知ることになります。自然界のどこに生息するか、どの程度の毒力か、などなど。こうして、たった一つ、昏睡を勉強し理解する事は関連した事柄を次々と分かっていくことにつながり知識の裾野はひろがります。きりがないと思うでしょうが、その裾野は他のプロブレム、貧血だろうが発熱だろうが関節痛だろうが、を理解する裾野と共通してきます。はじめは遅々と進まないと感じて投げ出したくなるかも知れませんが、やがて何事にも共通する土台がしっかりできあがってきて、そうなると俄然スピードアップするものです。

A:難しそうに思えますが、一人でできるでしょうか?

B:勉強というのは一人でするものです。理解するのはその人ですから、他人が代わるわけにはいかないでしょう。

C:自分で勉強したあと、他人とのデイスカッションは有効ですけど。

D:傍らに良い教科書が絶対必要です。つまらぬ本で時間を無駄にしないように。

A:そういえばプロブレムごとに書いてある本も目にしますが、あれではだめでしょうか?手間が省けていいように思えるのですが。

D:だめです。ああいった本は覚え書きに使うのならよいですが、あの段階では理解と言えません。どうしてもまともな教科書を使わないと。

B:安直なハウツー本ではだめですね。そこで止まってしまっては、とても勉強したとは言えません。あれは手引きです。

A:でも、プロブレムはごまんとありますね。

E:そうです。

A:ごまんとあるものにどこから手を着けたらよいのでしょうか?

C:それはもう、実際の患者を診ることです。自分の患者のプロブレムから勉強することです。

B:間違いなくそうです。実際の患者のプロブレムを学ばないと身につきません。書物だけでなく現実との応接が不可欠です。さもないと勉強の成果を照らし合わせる現実がありませんから、空疎な蘊蓄の評論家にはなっても力ある臨床医にはなれません。

E:受け持った患者のプロブレムリストをつくることが必須です。リストが勉強の土台です。一人の患者でプロブレムはいくつもあるでしょうから、その一つ一つを丹念に勉強するのです。先ほどの話にもあったように、いきなり患者の疾患を考えるのではなく、プロブレムという事態を病態生理学的に考え勉強するのです。病態生理学的に考えるのだと気づくと、勉強の正しい筋道が分かります。はじめはとても時間がかかります。なにせ学生中は疾患しか勉強してこなかったのですから。

C:はじめはリストそのものがつくれないのじゃないでしょうか?

D:まずつくれません。ですから、良い教科書はもちろんですが指導者がどうしても要ります。

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