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研修医の勉強 - 教師の役割


A:つまり教師ですね。何をするのですか?

D:自分の知識を照らし会わせる土台が正しくなければ誤った方向に行きます。プロブレムリストが正しくないと学ぶ道が狂います。プロブレムリストをはじめは正しくつくれないのが普通ですから、そのためにもプロブレムリストをつくれる教師が要るのです。以前エモリー大学のハースト教授は、良い指導者が居なければいる施設にかわりなさい、と研修医に言ってました。

A:それは今日の日本の研修医に望むべくもありません。よい指導者がどこにいるかも分からない ことはさて置き、未熟のうちに研修医の先の身の振り方を大学人事と離れてしまうの が不安なのです。

D:ハースト教授が言うには、教え学ぶことは一つのベンチに向かい合って腰掛けて一対一で討議することだそうです。

A:ただいまの一つベンチのお話は、逆境の中にあって日本画の革新を目指した、 岡倉天心の日本美術院を思い出します。「先輩あれど教師なし」と宣言したのです。 その人の実践なくしては教えられないのですね。よき先輩、ここではよき教師とはど んな人なのでしょうか?

B:親切な先輩が良い教師とは限りません。良い教師は自分の中身を言葉で語れま す。見たこと、解釈したこと、考えの筋道、決めた経緯を分かりやすい言葉で話せま す。そして、それらの弱点、欠陥、危険も言葉で述べることができます。つまりは自分を分かっているのです。

A:そういった教師とリストを共有して勉強するのですね。

B:上手を見て盗む、などと言うのが流行りのようですが、曖昧な勝手解釈ですませられることではありません。正しいことを正しい言葉で教えまた教えられるべきです。言葉で正されながら教えられるべきです。

A:良い教師は見分けがつきますか?

B:プロブレムリストを見るのが一番です。それが正しいかどうかは患者と照合しないと分かりませんが、リストが書かれていることが第一歩です。つぎは教師の診察を見ることです。ずさんか綿密か、曖昧か洗練かはすぐ分かるでしょう。

A:その通りでしょうが現実に良い教師に恵まれるとは限りませんね。有効な独学法はありませんか?

D:教師がいないと難儀でしょうね。でも、ないわけではありません。先ほどからの話にあるように、プロブレムリストの作成が鍵ですから、必死になって自分なりにリストをつくるのです。プロブレムの概念が身についていないので、まず、その概念を試行錯誤しながら身につけることです。これには良い教科書がありますから、解説されているとおりに繰り返しリストをつくってみることです。だれもリストをつくっていないからといって投げ出してはいけません。プロブレムリストは自分に課した設問です。正しく考え勉強する枠組みです。添削、つまり正しいリストとの照合がないのが独学ではつらいところですが。

A:誰でもできるでしょうか?独学というのは苦しいでしょうね。

E:でもできます。がんばってつづけるエネルギーがあれば。自分もあとからこういった考え方を知りましたが、勉強の仕方がすっきりしました。どんどん力がつきます。

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