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研修医の勉強 - 技能の習得とプロブレムリスト


A:プロブレムリストをつくるには、知識だけでなく診察検査技能が要ると思います が。

E:もちろん。現実の患者はいわば白紙状態です。問診から始まる診察、そしてルーチン検査がなければリストはできません。

A:その技能はどの範囲で、いつ身につければ良いでしょうか?

E:リストをつくるのに必要な、患者についての資料を基礎資料データベースといいますが、これは若い研修医のうちに正しくきちんと修練すべきものです。基礎資料がいいかげんでずさんなものだと、体裁だけあってもリストはでたらめです。患者の医学的真実に到達しません。

D:ここでも教師が要ります。優れた教師の問診と診察は、それだけで明瞭な結論を導きます。

B:筋道だって結論するには基礎資料が的確でないといけません。鋭い分析にたえるだけの正確さが必要です。

A:検査をたくさんしないといけないということですか?

B:全く違います。検査は必要最小限で十分です。それが基礎資料の検査です。

A:問診・診察・簡単な検査だけで、それほど深く結論できるのでしょうか?

E:秩序だった診察と検査、そして秩序だったまとまりのある知識があれば、驚くほどの結論ができます。教師のデイスカッションを聞けば納得がいくでしょう。そのレベルを目指さないといけません。

A:でも、実際を目の当たりにしないと、自分の壁をなかなか破れませんね。

C:そうなんです。独学の目一杯で、これでよいと思ってしまうのです。

A:それが独学の陥穽でしょうか。

D:自分の限られた周りを見て安心してしまうことです。

A:洗練した問診や診察を身につけるのに何か良い方法はありますか?

D:先ほども紹介した教科書の案内手引きに従うといいでしょう。

A:一人だけでこつこつ実践するのは大変ですね。

C:少しづつでもできるようになると患者を診るのが楽しみになります。そのうち新しい患者が待ち遠しくなるものです。なにせ自分でも力がつくのが分かりますから。正しく学ぶと加速度的です。教師の対診はまことに有効ですが、いなければ仕方がありません。

A:相当に集中しないと高いレベルには行き着かないようですけど。

E:むろんそうです。机にも向かわず手作業に走り回っているようでは研修ではありません。

B:若いうちは、やたらに技能習得に惹かれます。できるようになった気がしてしまうのですね。広範な知識と秩序だった観察の目を養わないままでは、じつはできたうちには入りません。

A:でもそうした研修が多いのではないでしょうか?

D:基本の力の正しい修練がないままに技能ばかりに走り、検査の羅列のレベルで終わってしまうのは残念です。患者を具体的に検討するとそのあやふやさが如実に表れますが、そうした的確な指摘を受け正しく分析しなおさないと自分の曖昧さになかなか気づきません。これは教えられる側だけではなく教える側にも言えます。

A:研究会や学会発表は有効な修練でしょうか?研修医のうちから盛んに指導されているようですが。

D:とてもそうとは思えません。

C:わき目もふらず患者を診ることが先決です。問診も診察も通り一遍の浅いものでは症例の分析も上滑りです。

D:机の上に並べた書物と患者のあいだを繰り返し往復して、一つの症状、一つの所見、一つのプロブレムから曖昧さを徹底的に除くよう勉強すると、他のことをする暇はないものです。よそ事をする暇があるようだと患者の勉強に集中しているとは思えません。

A:患者の勉強をしないと実力はつきませんか?

B:つきませんね。疾患を勉強するのではなく患者を勉強するのだということを片時も忘れてはいけません。

A:そこから疾患の理解も正しく身につくということですね。

B:そうです。そうやって実力が育まれます。

A:基本的な勉強の方向が学生や研修医に多少なりとも伝わったかと思います。私も 気持ちをあらためて勉強します。つづいてくる若い次世代にも期待しましょう。あり がとうございました。

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