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総合プロブレム方式の実際 - 基礎資料を確かめよう その1


総合プロブレム方式の実際

総合プロブレム方式におけるプロブレム

プロブレムリストを作ろう その1

プロブレムリストを作ろう その2

基礎資料を確かめよう その1

基礎資料を確かめよう その2



S君、君の退院記録をしらべて基礎資料の意義を論じよう。

患者:KM 75才男

<プロブレムリスト> 

#1 失神[96.12.13] → ダンピング症候群[97.1.07]

#2 巨赤芽球貧血[97.1.06]

#1
S:頭部外傷でOP.H6・1胃ガン胃亜全摘術施行.
(胃ガンの治癒切除術か? プロブレムにはあがらず既往の手術となっていることは再燃の可能性を残していないことだが、まちがいないね?)

術後より下痢をよくする.
(下痢の性質・回数・契機・腹痛などの随伴症状を君はたしかめたか? 食べなくても下痢するのか?それなら消化液分泌過剰だ。食べたときだけの下痢か?それなら話はまた別だ。脂肪は浮いていないか? 粘液はあるか? 下痢によって体重は減ったのか?)

その頃より食後すぐ発汗することあり.
(他に症状はないのか?君はそれを問診したか?)

H8・12・13、12時昼食摂取、16時頃突然発汗・めまい出現、意識朦朧となり倒れたため、当院救急受診.
(めまいはぐらぐらするめまいか、そうならばvestibular systemの異変だ。倒れたとはどういうことか? プロブレムは失神だが、倒れたとは失神して昏倒したのか? そうなら、そのあと意識はいつ回復したのか? めまいはいつまで続いたのか?)

このときBP220/110、GLU46.50%GLU40ml投与され20分後意識回復した.
(それまでずっと失神していたのか? それとも朦朧状態だったのか?)

H8・12・30、同様の発作が出現.この時はpm6・30夕食、pm8・00に発作.救急車にて搬送中および来院時けいれんあり.すぐに回復.
(痙攣か? しばしば痙攣・ふるえ・攣縮が混同されるが、正しいか? 同様の発作なら意識は喪失していた? それでは失禁は?)

精査目的にて入院.
(こういう不要な枕詞を言ってはいけない.最終目的はつねに治療だ.)

O:H・12・13発作時BG;pH7.436,pCO231.1,pO284.7,HCO321.2.Na142,K3.7,Cl102,BUN8,CRN0.8,Glu46.尿糖3+.
(先行するH・12.13の記述はOではなくSではないか? あとの12・30の記述がSにある。)

12・30H−CT;atrophy+・fresh lesion−.
(身体所見こそ重要だ。君は身体所見を述べていない。前回高血圧だった.血圧は? 不整脈は? 痙攣したのだろう? いったい神経所見は? 脳の萎縮とはどの部位か? 新鮮病変とは何をさしているのか、まるで分からない. 漫然と見るのではなく綿密に読影して記述せよ.)

1・07 75gmOGTT;Glu/IRI =81/24・201/166・118/107・83/33・55/5.3

A:oxyhyperglycemiaおよびhyperinsulinemia・反動的なhypoglycemiaあり.ダンピング症候群と診断.
(reactive hypoglycemiaは君の言うとおりまちがいなくある。だが、失神と痙攣の発作をもたらしたのはそれかどうかは、発作を分析しなければ結論できない。hypoglycemiaとは無縁の発作かもしれないではないか?)

分割食の指導・ベイスンの投与で退院.
P:Tx ベイスン0.6(3×1) Dx:ベイスン内服中の75gmOGTT

#2 
S:無症状.

O:1・07 RBC277・Hb10.9・Hct30.8・MCV111.1・MCH39.4・MCHC35.4.
(巨赤芽球性貧血と言っておきながら、君はWBCもPltも述べていない。)

A:VitB12欠乏性巨赤芽球性貧血.

P:放置.
(君は巨赤芽球性貧血を由緒正しき書物で読んだか? 知識を整理もせずに漫然と診断してはいないか? もし本当に巨赤芽球性貧血だったら、放置して予後はどうか?)

S君、君の基礎資料は分析に耐えるだけの事実性がない。君が掲げた#1失神の意識喪失発作さえその性質が記述されていない。それではこの患者に医学的観察がなされていないといっても過言ではない。批評を受けて、そのことを分かってくれただろうか?

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