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総合プロブレム方式の実際 - 基礎資料を確かめよう その2


総合プロブレム方式の実際

総合プロブレム方式におけるプロブレム

プロブレムリストを作ろう その1

プロブレムリストを作ろう その2

基礎資料を確かめよう その1

基礎資料を確かめよう その2



Sさん、君の退院記録から窺い知れる君の考えを一度たしかめよう。

<症例>C.N 20才 女性

<プロブレムリスト>

 #1 糖尿病性ケトアシドーシス[97・3・24]→治癒〈済〉[97・4・02]

 #2 糖尿病[97・3・24]→インスリン依存型糖尿病[97・3・24]                                                  

#1 
S:高校卒後化粧品販売員。検診異常なし。96・12車購入し毎夜遅くまで遊び飲酒。97・3口渇・多飲・多尿。体重が58kgから55kgに減少。3・22倦怠増強、食欲低下、嘔気。3・23救命センター受診。補液とインスリンを受け一旦帰宅。3・24入院。家族歴なし。

O:168cm52kg。血圧90/64脈拍100呼吸18。
(低血圧と頻脈はhypovolemiaだろうか? 君はこの所見に注目したか?)

意識清明。胸腹正。深部腱反射四肢で消失。
(青年は反射がむしろ亢進しているのが常。はやくも末梢神経症が現れたか? それよりも診察の仕方が正しいかを振りかえる方が先決である。診察は十分に訓練しているか?)

知覚正。

Na130・K4.2・Cl95・GPT10・LDH261・ALP297・γGTP18・TCHO253・GLU513・TP8.5・Alb5.1・WBC4900・Hb14.3・Plt20.9.
(低Na血症を君はどう解釈したか? 次行の浸透圧をみると低Na血症なのにhyperosmolar stateだ。 濃縮血清では高Na血症でなければならない。 Naはどこへ消えたか? hypovolemiaなら高aldosteronismに違いないから尿へ多量に排泄されたわけではない。)

尿糖2+尿蛋白±ウ±ケトン3+比重1025ph5.
PH7.217・pCO222.1・pO2112.2・HCO38.9・P−Osm303U−Osm581.

HbA1c8.4%・ACCR4.33%・24hrUS182gm・24hrCCR153L・S−CPR0.4・U−CPR2.9・抗GAD抗体<4・抗insulin抗体NSB7.5,FIRI7.5,TIRI12.
(この特殊なアッセイは#2の記述である。)

A:急激に発症しケトアシドーシスを伴った若い女性。入院後すぐに輸液と速効型インスリン投与を行いアシドーシスは速やかに改善した。
(アシドーシスを脱するまでの輸液の量は?血圧と脈拍は? これらの記述がない。血圧や脈拍が改善するまでの輸液の量は脱水の程度を反映する。インスリンの投与量は? ここに記されてあるような解説は不要。事実を具体的に述べよ。そうであってあとで振り返ることができる。)

#2
O:腹CT;脂肪肝、ECG;CVR−R=6.5%・Elratio=137%.眼科=糖尿病性網膜症なし.

A:発症形式と糖尿病家族歴がないことから、IDDMをうたがった。で、CPR低値からIDDMと診断。
(ふたたび、解説は不要である。事実所見はすでにSとOに示されている。一読明瞭に結論できるように所見を簡潔的確に述べればよい。反復不要。#1 O:に述べた抗GAD抗体を#2の根拠にする矛盾に自ら気がつかねば、思考が論理的であるはずもなかろう。)

合併症予防のため厳格なコントロールが必要であり、強化インスリン療法を導入した。食事1840kcal/日。4.06インスリン朝R20・昼R14・夕R12・眠前N16で血糖食前・後2時間・23時は95・184・92・134・310。尿糖1.33gm/日。

P:Tx 食事1840kcal/日 インスリン ペンフィル朝R14・昼R6・夕R4・眠前N8。

Sさん、君の解釈はとおりいっぺんにすぎない。一つ一つの所見を深く考える習慣を身につけよう。基礎資料から十分に深く正しい解釈ができるようになるために。

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